2012.09.14

明日に向けて(542)内部被曝と被爆者差別(中)

守田です。(20120914 22:00)

東京のホテルからです。今日は内部被曝問題研のある委員会の会議で出向いてきました。明日はここから福島県いわき市に向かい、ある測定室に全国の測定室のメンバーが集って行われる測定室講習会に参加してきます。その後、夜中にいったん京都市に戻り、明後日は京都府北部、丹後半島の与謝野町にいってお話します。旅から旅ですが、特有の楽しさを味わっています。

さて、今回は「内部被曝と被爆者差別」の(中)をお届けします。内容としては、内部被曝のメカニズムについてのお話です。なんだ、まだ差別のことは出てこないではないかとお思いかもしれませんが、放射線の人体に及ぼす影響が深刻であるがゆえに、それに続いて、その結果といかに向かい合うべきなのかということも導き出されることになります。なのでまずはしっかりと放射線の作用について耳を傾けていただきたいのです。

岩波ブックレット『内部被曝』でまとめた内容を短い発言の中にこめることができたように思いますので、ぜひお読みください。活用もしていただけたらと思います。

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内部被曝と被爆者差別(中)

3,隠されてきた内部被曝の脅威

それではなぜこれほどの放射線の評価に対する違いというものが出てくるのでしょうか。それは放射線と人間の関係がどこでどのように調べられたのかということに帰着します。どこの何か。広島・長崎の原爆です。では誰が調べたのか。アメリカ軍、およびそれが組織した機関です。ではなぜアメリカ軍が調べたのか。一つは兵器としての性能を知りたいからですね。落とした側ですから。もう一つ、決定的なことは、徹底して、原爆の非人道性を隠したかったということがあります。では非人道性を隠す核心は何だったのかというと、内部被曝を全くなかったことにすることです。

外部被曝と内部被曝、これはもうポピュラーになった言葉ですね。外部被曝は外からの被曝です。内部被曝は放射性物質を食べたり飲み込んだりして、そこから被曝することです。では原爆ではどう言われているのか。原爆が破裂した時に、中性子線とガンマー線という放射線が飛んできます。これに当たるのが外部被曝です。プラス、キノコ雲があがって、その中に放射性物質がたくさん含まれていました。それが数十キロにわたって、広島・長崎を汚染しています。そこから降下してきたものを多くの方が、黒い雨に当たったり、埃と一緒に吸い込むなどして内部被曝してしまったのですね。

これをアメリカは一切、認めてこなかったのです。ないということになっているのです、これが。正確に言うと「認めてこなかった」のではなく、現在進行形で、今なお、認めていないのです。そして日本政府はこれに完全に追随してきたのです。だから内部被曝という言葉は日本政府は使ったことすらありませんでした。一番最初に使ったのは、昨年の3月11日以降の、枝野さんの会見においてでした。それが日本政府高官が、内部被曝という言葉を使った初めてのことだったのです。内部被曝は全く隠されてきた、そして現在も隠されているのです。そのことをおさえてください。

4,放射線による電離作用

続いて内部被曝のメカニズムについてお話したいと思います。放射線の害というものはどのように出るのかですが、これは物理学の領域になります。みなさんの大好きな物理学ですので聞いてください。わりと単純です。私たちの物理的世界は原子から成りたっています。原子には真ん中に原子核があり、その周りを電子が回っています。ただ原子として存在しているものはまれで、原子と原子がくっついて分子の形で存在しているのですね。その場合、どのようにして原子がくっつくのかというと、電子が軌道を共有化し、相互作用を及ぶぼすことによってくっつきます。

それに対して放射線の作用はシンプルです。放射線が分子に飛んでくると、そのうちのあるものが電子にあたり、軌道からはじきだしてしまうのです。そうすると電子の相互作用によってつながっていた分子が切れてしまいます。分子切断が起こるのです。それが放射線が物質に与える影響の基礎になります。電離作用といいますが、これがまた副次的な要素を作り出していくことになります。

5,DNAが切断される

これが生物に対してはどういう影響を与えるのか。私たちの体の細胞の中にはDNAがあります。一番大事な遺伝子情報が入っています。ここに放射線が飛んでくるとどうなるかというと、分子切断が起こりますので、生命の鎖が切れてしまいます。ところが、DNAは二重の螺旋になっていて、そのことで自分を守っています。さらに生物の体には驚異の修復力があって、二重の鎖のうちの一本が切られたぐらいだったら、何とかつなぎなおすのです。

ところがこの二重の螺旋が解けるときがきます。それぞれが一本になり、自分を複製してもう一度、二重になる。これが細胞分裂です。今、私たちの体の中で激しく起こっていることです。なので細胞分裂中のDNAというのは、放射線に弱いわけです。一本になっているときだからです。ではどういうところが弱いのかというと、細胞分裂が激しいところで、例えば粘膜ですね。だから粘膜はやられやすくて、例えば鼻血が出る。下痢や口内炎が起こります。腸の上皮細胞の粘膜が細胞分裂が激しいからです。あるいは細胞分裂が激しいのは毛根です。抗がん剤治療で髪の毛が抜けるのもそのためです。抗がん剤は、がんという激しく分裂増殖を繰り返している細胞を攻撃するので、副作用として毛根もやられるのです。

その考えからいくと、細胞分裂を激しくしている人ほど、放射線に弱いことになります。誰かという子どもです。そのため大人より子どものほうが放射線の影響を受けやすいのです。ただし、高齢者は放射線に強いのかというと、そんなことはありません。高齢者の場合は、一般的に言って、免疫力が落ちていますし、いろいろな病気を抱えていますから、その病気に対して放射線は促進するものとして働きます。だから高齢者も、放射線に対しては弱者です。そのことを知っておいてください。

さらにDNAに飛んでくる放射線が増えるとどうなるのか。そうなると二重切断が起こります。その場合でもDNAはつなぎなおしをしようとしますが、それができないとDNAは死んでしまいます。DNAが死ぬと、それが入ってる染色体が、そして細胞が死にます。これが全身に起こると、いわゆる放射線急性症状を起こして、ひどい場合にはその方が亡くなってしまいます。

ところがこの段階でも、DNAはつなぎ直しを試みるのですね。試みてどうなるのかというと、二重切断で情報がめちゃめちゃになっているので、何とかつなぎなおすのですが、異常再結合することが多くなる。それが染色体異常をもたらします。そしてその異常再結合したDNAが、さきほど説明したように細胞分裂していくのです。細胞分裂してあやまった自己をコピーして増やしてしまいます。そのためある程度の時間が経つと、異常再結合したものの数が体の中で増えていって、病気などをもたらします。これが「にわかに健康に被害はない」ということの正体です。気をつけてくださいね。あれは「健康に害はない」とは言っていませんからね。

6,放射線の違いによる物質への作用の違い

ここで内部被曝の核心問題を話します。注目してほしいのは放射線の種類です。原発からでてきた放射性物質の中から飛び出してくるのは、アルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線です。一番、強いのはα線、次にβ線、γ線です。α線は空気中では45ミリぐらい飛びます。β線は1メートルぐらい。γ線は体も通り抜けていきます。この言い方は間違いがないのですが、これがしばしば誤解を生みます。この点は物理学者さんがもっときちんと説明すべきだと思うのですけれども、次のような説明もされます。「α線は紙1枚で止まります。β線は金属板で止まります。γ線は厚いコンクリートでないと止まりません。」こう言われると、γ線が一番強く見えてきてしまいます。

これは一体、どういうことなのか。ここでもう一度、注目してほしいのは放射線が電子を弾き飛ばして、分子切断をする場面です。比ゆ的な言い方になりますが、α線は一番大きいのです。大きいので、飛んでいくと、自分の行く先にある分子にことごとく衝突するのです。α線がなぜ空気中で45ミリで止まるのかといえば、45ミリの中にあるたくさんの分子を切断して、エネルギーを失うからです。人体の中では100分の4ミリしか進みません。それでも細胞の世界では大きな単位ですが、ともあれその間にある分子をことごとく切断し、そこでエネルギーを使い果たして止まってしまう。それだけ密集した被曝をもたらすのです。

それに対してγ線が体を通り抜けていくというのは、分子の中の原子核と電子の間をスカッと抜けていくからです。α線に比べると、電子にあたる確率が非常に小さい。そのため物質との相互作用が少ないので、エネルギーを使いきらず、人体を通り抜けてもまだ遠くまで飛んでいくのです。

そもそも分子の世界は私たちの日常感覚とはずいぶん違う世界です。原子核が米粒ぐらいだとすると、電子は学校の校庭の周りぐらいのところを回っています。内部はスカスカなのです。そしてそのスカスカなところを、γ線は通り抜けていきます。突き抜けるのではありません。γ線はα線と比べたら、物質とあたりにくい放射線なのです。

7,内部被曝の核心問題

そこから核心問題が導きだされます。外部被曝では当たるのはほとんどγ線に限られるということです。β線も1メートルぐらいは飛んできますが、そこにいるともうエネルギーを失うので体に入ってくることはありません。50センチではどうか。エネルギーが四分の一は残っていますから、体に入ってはきますが、数ミリで止まります。直近からなら1センチは入ってきますが、内臓レベルでみたらほとんど届くことはない。なので外部被曝はほぼγ線だけで起こると言ってよいのです。

対して内部被曝は、この3種類の放射線を出す物質を、吸い込んだり食べたり飲み込んだりして体内に取り込んでしまうことですから、すべての放射線に被曝します。しかもα線とβ線の被曝はγ線の被曝に比べて局所に密集して行われます。なので内部被曝は外部被曝とは比較できないほどに強烈なのです。これはなかなか数値化できないのですが、ヨーロッパ放射線リスク委員会の科学者たちは、あえて数値化するなら数百倍の危険と見積もるべきだと主張しています。バスビーさんは、平均すれば600倍ぐらいではないかと語っています。なので内部被曝の方が圧倒的に怖いのです。

ところが今の日本政府は、「この人は1ミリシーベルトの内部被曝をしました、1ミリの外部被曝もしました、したがって被曝は2ミリシーベルトです」・・・という言い方をしています。つまり外部被曝と内部被曝を同じに扱っている。すべて外部被曝に相当するものとして扱っているのです。内部被曝の特有性、圧倒的に密集して行われる被曝の恐ろしさが何ら考慮されていないのです。それで食料の許容値なども導き出しているのです。だからそのまま鵜呑みにして食べたら、大変深刻な内部被曝を被ってしまうことになります。

続く

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